鈴木康弘「達眼」特別編

令和に輝く名種牡馬は!?キンカメ後継カナロア 繁殖相手の良さ受け入れる大らかな“愛妻家”

 後継種牡馬レースを制す決め手は花嫁の引き立て役になれる寛容さだ。7年連続リーディングサイヤーに君臨したディープインパクトの急死で風雲急を告げる種牡馬界再編。G1馬体診断でおなじみの鈴木康弘元調教師(75)が次代を担う種馬の可能性を、その立ち姿から大胆に占うと…。国内最大手、社台スタリオンステーション(北海道・安平町)にけい養される種牡馬の中から達眼が選んだのはロードカナロアとキズナだ。
 社台グループの礎を築いた吉田善哉オーナー(故人)に誘われて英国、フランスのスタリオン(種馬場)を巡ったのは29年前のこと。「鈴木さん、気になる種馬はいましたか?」。帰国時、一緒に見て回った欧州種牡馬に対する感想を求められました。「どれも普通でしたね」と答えると、「そうだよね、普通だよね」と笑いながら相づちを打ち、ひと呼吸置いてこう打ち明けてくれました。「実はサンデーサイレンス(SS)を米国から日本に入れようと思っているんです」。当時は善哉さんが導入した種牡馬ノーザンテーストの全盛時代。繁殖牝馬にもこの系統(ノーザンダンサー系)が増えていました。善哉さんは近親交配を避けるためアウトブリード(異系交配)種牡馬を探しており、半ばSSに決めかけた時に欧州へ私を誘ったのでしょう。欧州のスタリオンを巡った結果、SSを超える種牡馬はいないと結論を出して、購入を打ち明けてくれたのです。

 今の種牡馬界も当時と同様に、いや、それ以上にアウトブリードが求められています。傍流のアウトブリードだったSSの血統が大成功して主流に変わり、優れた繁殖牝馬の多くがSS系になった。ディープインパクトの次代を担うのは、SS系の繁殖牝馬と交配できる非SS系。ミスタープロスペクター系で知られるキングカメハメハの2世が時代の寵児(ちょうじ)になっていくのではないでしょうか。

 なかでもロードカナロアは異彩を放っています。どこまでもゆとりにあふれた馬体。父譲りの厚みに加えて繊細さも備えた筋肉。名スプリンターだったとは思えないほど穏やかな目つきでのんびりと立っています。心身共に余裕に満ちた立ち姿。この余裕こそが自分を出し過ぎず、交配相手(繁殖牝馬)の特長を引き出すことにつながっている。立ち姿は気性や体を忠実に映し出す鏡。図らずも血統の特徴まで体現しているのです。

 キズナにも言えますが、自己主張し過ぎないことが名種牡馬の条件。ロードカナロアの立ち姿に現れているようにおおらかな姿勢で繁殖相手の良さを受け入れるから、相手に応じたさまざまなタイプの産駒を出せる。アーモンドアイ、サートゥルナーリアなど中距離馬からステルヴィオのようなマイラー、ダノンスマッシュ、ファンタジストなどスプリンターまで…。

 今の時代は2歳時から活躍できる仕上がり早の産駒を輩出することも重要な条件。ロードカナロアの初年度産駒32頭がデビューした17年の2歳戦を勝ち上がり、ファーストシーズンリーディングサイヤーを獲得した。「鈴木さん、気になる種馬はいましたか?」。アウトブリードを探した吉田善哉オーナーから今、同じ質問をされれば、ロードカナロアの名を真っ先に挙げます。

 ▼父キングカメハメハ 母レディブラッサム(母の父ストームキャット)11歳 19年種付け料1500万円、種付け頭数245頭


【種牡馬馬体診断】キンカメ後継ドゥラメンテ 若々しく張り満点

 種牡馬生活3年目に入ったというのにまだ現役の競走馬のような立ち姿です。若々しくて張りに満ちている馬体。前向きな気性を伝える姿勢。父キンカメ、母の父SSの血統だけに種牡馬としての成否はアウトブリードのいい繁殖牝馬と交配できるかにかかっています。
 ▼父キングカメハメハ 母アドマイヤグルーヴ(母の父サンデーサイレンス)7歳19年種付け料600万円、種付け頭数184頭


【種牡馬馬体診断】キンカメ後継ルーラーシップ 肩からトモに厚み

 威風堂々とした立ち方。肩からトモまで凄いボリュームです。父キンカメの特徴を最も強く受け継いでいる。ロードカナロアほど余裕がないため産駒にはパワーを一徹に伝えていくのではないか。非SS系だけにSSの素軽い血統の繁殖牝馬と配合できるのが強み。
 ▼父キングカメハメハ 母エアグルーヴ(母の父トニービン)12歳 19年種付け料400万円、種付け頭数225頭


【種牡馬馬体診断】ディープ後継キズナ 特長引き出す度量 距離に万能性あり

 瓜(うり)のつるに茄子(なすび)はならぬ(子は親に似る)といいますが、70年代に社台ファームが導入した種牡馬ハンターコムは自身とそっくりのトモ(後肢)を持った子供を輩出しました。繁殖相手がどの馬だろうとお構いなし。父親のコピーばかりが生まれてくる。産駒をひと目見ればハンターコムの子だと分かったものです。こういう自己主張の強過ぎる種牡馬は成功しません。繁殖相手によっては自身と似ても似つかぬ産駒を出す、瓜のつるに茄子をならせるような種牡馬が大成するのです。
 たとえばキズナ。自身は競走馬時代のレースぶりも血統、体形も中長距離仕様。ステイヤータイプの産駒が多くなるとみていますが、産駒の重賞初制覇は1200メートルの函館2歳Sを優勝したビアンフェでした。この父親は自己主張し過ぎず、繁殖相手(サクラバクシンオー産駒の短距離馬ルシュクル)の特長を受け入れる度量を持っている。立ち姿を見てください。穏やかな目で、下顎をのんびり出している。おおらかな気性を伝えています。

 耳を絞って気負い込む他のディープインパクト2世種牡馬とは一線を画した物腰。SS系の繁殖牝馬とは交配できませんが、ディープインパクトの後継に最もふさわしい。キズナは瓜のつるにも茄子をならせる種牡馬です。

 ▼父ディープインパクト 母キャットクイル(母の父ストームキャット)9歳 19年種付け料350万円、種付け頭数164頭


【種牡馬馬体診断】ディープ後継サトノダイヤモンド 超一級品の肉体美

 競走馬時代から指摘してきましたが、馬格は超一級です。柔軟性と力感に満ちた肉体美。耳を絞り気味にして競走馬の頃よりうるさい面をのぞかせていますが、この美しさをどう伝えていくか楽しみ。自身がそうであったように早い時期から活躍する産駒を出すでしょう。
 ▼父ディープインパクト 母マルペンサ(母の父オルペン)6歳 19年種付け料300万円、種付け頭数144頭


【種牡馬馬体診断】ディープ後継リアルインパクト 精神的余裕ほしい

 耳を絞って尾を上げています。四肢には力が入り過ぎている。競馬に向かうのではないのだから、リラックスしてほしい。馬房から引き出させると種付けかと思って興奮する馬もいますが、それとは少し違う。精神的な余裕が生まれれば、大成するのではないか。
 ▼父ディープインパクト 母トキオリアリティー(母の父メドウレイク)11歳 19年種付け料80万円、種付け頭数118頭


【種牡馬馬体診断】レッドファルクス 母父SS特長受け継ぎ走りにアクセント

 引退したばかりなのに随分のんびり立っています。父スウェプトオーヴァーボードは単調な競馬をする産駒ばかりでしたが、この馬は現役時代にアクセントのある走りをしていた。母の父SSの特長を受け継いだのでしょう。産駒にもその特長を伝えれば成功しそう。
 ◆父スウェプトオーヴァーボード 母ベルモット(母の父サンデーサイレンス)8歳 19年種付け料80万円、種付け頭数132頭


【種牡馬馬体診断】サトノクラウン 非SS系で欧州特有重厚な体

 欧州血統をそのまま体現したような重厚な馬体。競走馬時代もタフな馬場に強いパワーホースとして知られていました。産駒にも馬力を伝えていくでしょう。非SS系だけにSS系の繁殖牝馬が軽快さを補ってくれる。父の重さ+母の軽さでどんな産駒が出るか。
 ▼父マルジュ 母ジョコンダ2(母の父ロッシーニ)7歳 19年種付け料100万円、種付け頭数207頭


【種牡馬馬体診断】イスラボニータ 流麗な立ち姿誇示

 引退から1年半余、少し腹が出ましたが、流麗な姿を誇示した現役時代の面影は残っています。スピード、素直な気性、早い完成度、上手な競馬ぶり、前肢を水平近くまで伸ばす柔らかい関節…。産駒に伝えられる長所は多い。相手次第で距離の融通も利くはず。
 ▼父フジキセキ 母イスラコジーン(母の父コジーン)8歳 19年種付け料150万円、種付け頭数142頭


【種牡馬馬体診断】キタサンブラック “やる気満々”貫禄十分の腹周り

 長い脚を短く見せるほど腹が出て貫禄十分。種付けと間違えたのか、陰部をのぞかせてやる気満々です。今の時代はこの馬のようなナタの切れ味よりカミソリの切り味を持った馬の方が種牡馬として成功しています。切れのある繁殖相手と交配することが肝要です。
 ▼父ブラックタイド 母シュガーハート(母の父サクラバクシンオー)7歳 19年種付け料400万円、種付け頭数110頭


【種牡馬馬体診断】エピファネイア 名牝の血を伝える“闘争心”

 尾を上げ力み返った立ち姿。競走馬のように白目をむきながらカメラをにらみつけています。名牝シーザリオを母に持つシンボリクリスエス産駒。血統と競走成績は今年の新種牡馬の中でトップクラス。産駒に伝える激しい気性が闘争心に転化すれば大成するでしょう。
 ▼父シンボリクリスエス 母シーザリオ(母の父スペシャルウィーク)9歳 19年種付け料250万円、種付け頭数224頭


【種牡馬馬体診断】オルフェーヴル 産駒も一発勝負型

 尾に力を入れて立っています。このハイテンションが走る方に向けば凄い競馬をするが別の方に向けばまともに競馬ができない。非凡な素質と危うさを併せ持つ産駒を輩出するでしょう。駿馬か凡馬か。本塁打か三振か。良くもあしくも、一発勝負型の種牡馬でしょう。
 ▼父ステイゴールド 母オリエンタルアート(母の父メジロマックイーン)11歳 19年種付け料400万円、種付け頭数52頭
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